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東京地方裁判所 平成3年(ワ)11725号 判決

原告

相沢嘉郎

右訴訟代理人弁護士

釜井英法

宮田信男

木田卓寿

被告

星野清興

右訴訟代理人弁護士

菅原哲朗

主文

一  被告は、原告に対し、金五一九万円及びこれに対する平成三年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二二五三万八八三六円及びこれに対する平成三年九月一〇日(被告への訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、歯科医師である被告からインプラント治療を受けた原告が、診療契約上の債務不履行に基づき被告に対し損害賠償を請求している事案である。

〔争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実〕

一当事者

被告は、歯科医師で、ユニバーサルインプラントグループの名で、「星野デンタルクリニック」「ユニバーサル歯科クリニック」その他いくつかの歯科医院を開設経営している者であり、原告は、昭和五三年一二月以来、被告からインプラント等の治療を受けていた者である(争いがない)。

二インプラントについて

インプラントは、広くは、疾病または外傷などのために生体の一部臓器が機能喪失あるいは欠損した場合に、その部分の機能または形態を回復するために非生物材料を生体内に植え込むことをいうが、歯科領域におけるインプラント(以下単に「インプラント」という)は、喪失した歯に代え、顎骨に支台を設置して人工歯根(義歯)を装着するものである。インプラントの技法は、顎骨面にフレームを装着して支台とする骨膜下インプラント法と顎骨内に支台を埋め込む骨内インプラント法に分類され、骨内法には、ブレード型、スクリュー型(この中に、ブローネマルクというスウェーデン製も含まれる)、シリンダー型等がある(乙一二、一三、懸田証人)。

三診療経過等

(以下、歯について、上顎・下顎、右・左を問わず、第一切歯を一、第二切歯を二、犬歯を三、第一小臼歯を四、第二小臼歯を五、第一大臼歯を六、第二大臼歯を七、第三大臼歯を八と番号で表示し、右側上顎第一切歯なら右上顎一のように表示する)

1 原告は、子供のころから歯槽膿漏で歯が弱く、昭和五〇年七月から一〇月にかけて東京医科歯科大学附属病院で歯槽膿漏の治療を受け、もう手遅れだと言われた。昭和五三年八月から九月ころ、歯槽膿漏が悪化したため立川市内の山本歯科医院で右上顎三、四、左上顎三、四、右下顎二、三、八、左下顎三、八を残して抜歯してもらい、その後は可撤性の義歯を装着していた。

同年一一月末ころ、原告は、新聞で京都セラミック社製の人工歯根(インプラント)が厚生省から製造販売の許可を得たとの記事(甲一)を読んで同社に問い合わせ、近くでインプラントを行っている歯科医院として被告経営のユニバーサル歯科クリニックを紹介された。そして、同年一二月ころ、被告を訪れてインプラントの説明を受けた結果、残っていた歯は残し、その他の部分についてインプラント手術を受けることになった(争いがない)。

2 被告は、昭和五四年一月一六日、原告の下顎欠損部にインプラント手術を行い(右下顎四、五、六にバイオセラムU型、左四、五、六にはバイオセラムスクリュータイプとTタイプ)、次いで同年二月六日、右上顎一、二、左上顎一、二の各中間にバイオセラムスクリュータイプを一本ずつ(直径四ミリメートル、長さ一五ミリメートル)、右上顎六、七にブレードタイプのバイオセラムU型、左上顎六、七にバイオセラムU型のインプラントを埋め込む手術を行ったうえ、同年三月初め、上下顎の各左七から右七にかけてブリッジを装着した(被告本人)。

3 昭和五七年六月、原告は、残っていた右下顎三、左下顎三の歯が歯槽膿漏のため悪くなったので、被告に相談して抜歯してもらい、ブレードタイプのインプラントを埋め込み、プラスチック製義歯の取り付け手術を行った。そして、以前入れたブリッジを連結して補綴処置をした(争いがない)。

4 同年一二月、原告は、残っていた右上顎三、四と左上顎三、四の歯槽膿漏が悪化したため被告に相談し、同月二五日これらの歯を抜歯してもらった。その際、被告は、原告上顎のインプラントを中央の一、二本を残して全部抜いたうえ、右上顎四、五と六、七のあたりにバイオセラムのブレードインプラントを入れて、昭和五八年一月一三日に右インプラントにブリッジを装着した(争いがない)。

5 昭和五八年八月二七日、被告は、右上顎六、七のインプラントを除去して上顎洞を開放し、口腔内から開口部を洗浄した(争いがない)。

6 同年九月二八日、被告は原告に対し、右上顎六、七に上顎洞の閉鎖を兼ねて骨膜下インプラント(骨に沿って歯肉を薄く切り離し、そこへ骨の形に合わせた特殊金属製のフレームを挾み込んで上から歯肉をかぶせるインプラント)の手術をした(争いがない)。

7 右手術後、原告が同インプラントに触れている部分の歯茎の痛みを訴えたため、被告は、左上顎五、六に骨膜下インプラントを埋め込む手術を行った際に、右上顎の穴の閉鎖手術を行った。被告は、同年一一月にそれまでに入れたインプラントを連結して、ブリッジを装着した(被告本人)。

8 昭和五九年九月ころ、被告は、右上顎奥に埋め込んだ前記骨膜下インプラントを抜去し、上顎洞の閉鎖手術をし、同年一二月二七日には、上顎の残りのインプラントも抜いた。そして、原告は、昭和六〇年二月から可撤性の義歯を入れて生活した(争いがない)。

9 昭和六二年一月二二日、被告は原告に対し、低くなった上顎側の歯槽堤をカバーして再びインプラントを埋め込むことができるように、上顎側歯茎と骨の間に顆粒状のアパタイト(ハイドロキシ・アパタイト)を入れる手術を行った(争いがない)。

10 さらに同年五月二三日、被告は、上顎洞の歯と歯茎の間に固形のアパタイトを入れる閉鎖手術をし、同年六月八日、歯茎が開き固形アパタイトが見えていたため、上顎洞の再閉鎖手術を行った。ところが、同年一九日の抜歯後歯茎が開いて固形のアパタイトが取れてしまった。そこで同年八月一四日、上顎洞の再々閉鎖手術をしたが、これも抜歯後二日位で再び穴が開いた(被告本人、乙七、八の二)。

11 同年九月一八日、被告は、骨の穴をチタンプレートで塞ぐという上顎洞の閉鎖手術(シールド法)を行った(被告本人、乙八の三)。

12 同年一〇月二三日、原告は、右顎の腫れや痛みが治らないので東京医科歯科大学病院に行き、同年一一月四日、同病院の医師により右顎関節症、右上顎洞炎と診断された(甲九、一〇)。

同月二一日、被告がチタン板による上顎洞の閉鎖手術(縫合)をしたが、それでも上顎洞の穴は塞がらなかったため、原告は、昭和六三年一月七日、被告から紹介を受けた慈恵医大第三病院の歯科医師により上顎洞の閉鎖手術(口蓋粘膜弁形成手術)を受け、同月二七日ころ上顎洞は閉鎖された(争いがない)。

13 昭和六二年一一月二一日ころ、被告は、原告の上顎の前歯部左二から右二までに、スウェーデン製インプラント(ブローネマルクインプラント)を四本埋め込み、翌昭和六三年四月一九日ころ、第二回目の義歯を取り付ける手術(連結装着によるバーを用いるオーバーデンチャー)を行った(被告本人、乙八の四、八の六)。

14 平成元年二月ころ、原告は東京医科歯科大学付属病院口腔外科で診療を受け、上顎左三から右三にかけて上顎の前歯部のインプラントが動揺して感染し、慢性化膿性歯槽骨炎になったと診断され、同インプラントを取り外したほうがよいと指摘されたので、同月二〇日、右病院で同インプラントを除去する手術を受けた。下顎のインプラントも、平成四年二月二一日、日本歯科大学で除去してもらった(原告本人、甲九ないし一二)。

〔争点〕

一被告に以下の債務不履行があったか。

1 インプラントの無断除去

(原告の主張)

被告は、診療契約に基づき、患者である原告の身体に侵襲を加えるときには、事前に原告の真意に基づく承諾を取ってから行う義務を負っているにもかかわらず、原告に無断で、昭和五七年一二月二五日、すでに定着して原告の身体の一部となっていた上顎のインプラントを、中央一ないし二本を残し抜いてしまった。

(被告の主張)

被告は、原告に対しインプラントを撤去する理由を十分に説明し、原告の同意を得てインプラントを抜去したうえ、より解剖的形態に適合したインプラントを施術したもので、原告の自己決定権を侵していない。

2 インプラントによる上顎洞穿孔の発生とその発見の遅れ

(原告の主張)

(一) 被告は、昭和五七年一二月二五日、原告の右上顎六、七に植立してあったバイオセラムU型のインプラントを除去して新たにブレードタイプのインプラントを埋め込む手術を行う際、上顎骨は薄いので、患部の骨質と残された骨幅からして、再度インプラントを埋め込んだ場合、器具によりまたは同部分の骨吸収を進行させることにより、上顎洞穿孔を生じさせるおそれがあったから、穿孔を生じさせないよう注意すべき義務があるのに、これを怠り、器具によりあるいはインプラントの適応判断を誤ったため、ブレードタイプのインプラントを植立した手術直後に上顎洞穿孔を生じせしめ、よって原告に対し長期にわたり排膿、疼痛、痺れ、咬合痛等の苦痛を与えた。

(二) 被告は、原告から、右昭和五七年一二月の手術後に右側の鼻からの鼻汁に血が混じり、しばらくすると黄色い鼻汁が出始め、鼻の奥で臭いにおいもするようになり、加えて右側のこめかみが痛み、顎骨にも痛みがでるようになったこと、右症状が良くならないので昭和五八年四月に耳鼻咽喉科で診断を受け歯性の蓄膿症と診断されたことを聞いたのであるから、上顎洞穿孔の可能性を疑い直ちにそれを確認すべき義務があったのに、これを怠り、昭和五八年八月末まで約一〇か月間何の処置もとらなかった。

(被告の主張)

(一) 被告は器具により上顎骨を貫通して上顎洞に穿孔を生じさせていない。本件上顎洞穿孔症状は、インプラント手術後長期の時間経過があってから生じたのであり、原告の特異な骨体質のため日々の咬合圧・負荷等によって既設のインプラントが沈下現象をおこし、骨吸収の結果、弱い骨を突き破って交通路を形成したものである。

原告は、初診時から上顎臼歯部の骨質が薄く、かつ上顎洞が下垂した形態であり、当初からインプラント手術の困難が予想された。そこで、被告は、原告に手術内容を詳しく説明し、その承諾をとってあえて施術した。原告は自ら調べてインプラント治療の知識を獲得し、手術結果が完全に満足いかないかもしれない危険を承知の上で、先端医療であるインプラント手術を要望していたものである。

(二) 昭和五八年二月から五月までの間、原告が来院し定期診察をしているが、とくに異常はなく、原告は何らの症状も訴えていなかった。

3 上顎洞穿孔に対する不適切な治療

(原告の主張)

(一) 患者の上顎洞に穿孔を生じさせた場合、直ちに上顎洞と口腔との交通を絶つ措置を講じる義務があるのに、被告は、昭和五八年八月末、右事実を確認した後、同年九月に右上顎に骨膜下インプラントを埋め込んだだけで、交通の断絶を不十分なままとし、その状態を昭和五九年九月まで継続させた。

(二) 被告は、昭和六二年四月ころ、右上顎洞と口腔との交通が断絶されていない事実を発見したのであるから、直ちにその交通を絶つ措置を講じるべきであったのに、これを怠り、同年五月から一一月ころまでの間、不完全な上顎洞閉鎖手術を繰り返した。

(被告の主張)

(一) 上顎洞炎症状は、治療期間中時々生じたが、被告の治療行為によりその都度治癒しており、安定期間経過後である昭和六二年に再発したと考えるべきである。その後被告は適切な処置をし、かつ慈恵会医大病院の専門医に紹介したのであるから転医義務も果たしている。

閉鎖手術や骨膜下インプラントによる処置後、症状は消褪してきたため経過を観察していたもので、原告がインプラント全体に対する痛みを訴えたため、昭和五九年一二月二七日に上顎全てのインプラントを撤去した。

(二) 上顎洞穿孔については、洞内洗浄に期間を要したものであり、洞内洗浄は非常に重要であるから、そのために時間がかかったからといって漫然と患者を放置したことにはならない。

4 不適切なスウェーデン製インプラントの手術

(原告の主張)

昭和六二年一一月ころすでに原告の上顎前歯部は骨吸収が極度に進行し、インプラントを埋め込むのに不適当な状態になっていたのであるから、被告としてはインプラントの手術をすべきでなかったのに、あえて上顎前歯部にスウェーデン製インプラントの埋込み手術を行って、慢性化膿性歯槽骨炎を生じさせた。

(被告の主張)

(一) スウェーデン製インプラントは、原告本人の強い希望により施行したものであり、被告はこの手術の治療費は貰っていない。

(二) 慢性化膿性歯槽骨炎は、歯槽膿漏や歯牙周囲における化膿性炎の総称であり、特別重篤な病状を示す傷病名ではない。

二損害の有無及び額 請求合計二二五三万八八三六円

(原告の主張)

被告の行為により、原告は多重かつ長期にわたり疼痛に悩まされたほか、インプラントによる歯の再生は今後不可能な状態に陥っている。したがって、インプラント治療が今後不可能であることが客観的に明らかになった昭和六二年一一月をもって症状が固定したものと考え、右日時以降の原告の状態は被告の違法かつ不適切な行為による後遺障害と解するのが相当である。

1 症状固定日までの損害

(一) 治療費合計 二五一万円

インプラント関係で原告が被告に支払った治療費

(二) 慰謝料 三〇〇万円

原告は昭和五三年一二月から昭和六二年一一月まで長期かつ継続的に多重の苦痛を受けた。とりわけ昭和五四年一月一六日に下顎右七から左七に最初のインプラントを装着してから、装着部分の疼痛に襲われ、会社勤めを逐次変転しながら患部の治療改善に努めた。そして、昭和六二年二月以降は就業できない状態が続き、長期にわたり職業、収入とも不安定な生活を余儀なくされており、その損失は慰謝料の算定にあたり評価すべき事情である。したがって、原告の精神的苦痛を慰謝するには金三〇〇万円が相当である。

2 症状固定日以降の損害

(一) 逸失利益 一二二〇万七一二四円

原告の症状は、労働災害並びに交通賠償の後遺障害別等級表、労働能力喪失率に準じてみると、同表中一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に相当する。

(計算式)

618万2200円(賃金センサス平成元年第一巻第一表による原告年齢の男子労働者学歴別年収額)×0.14(労働能力喪失率)×14.104(昭和六二年当時四六歳の新ホフマン係数)

(二) 慰謝料 二五〇万円

今後も長期にわたる苦痛を慰謝するのに右金額が相当額である。

3 弁護士費用 二三二万一七一二円

原告は、本件を委任するにあたり、着手金として金三〇万円を支払い、成功報酬として勝訴額の一割に相当する金員の支払を約束した。

(被告の主張)

1 治療費に、本件請求の基礎となっていない下顎のインプラント治療部分が含まれている。

2 後遺障害については、口中の健康状態が原告の全生活上の障害になっているとして損害額を算定するのは不当である。被告は、普通の入れ歯によって通常人としての生活が可能である。

3 慰謝料についても、既に最初に来た時が末期的だったのであり、インプラントをしていなかったとすれば、その間不自由な可撤性義歯を入れなければならなかったのであって、治療経過のすべてを精神的苦痛として損害賠償の評価の対象とすることはできない。

第三争点に対する判断

一債務不履行の有無

1  インプラントの無断除去

(一) 昭和五七年一二月二五日、装着してあった上顎のインプラントを中央の一、二本を残して全部抜歯し、右上顎四、五と六、七のあたりにバイオセラムのブレードインプラントを入れた理由につき、被告は、「上顎部の歯槽膿漏が末期的症状で、しかも上顎の難しい場所にインプラントを入れたため、歯槽膿漏の進行により歯の支えとなるものがなくなり、インプラントも動揺し始めたため抜かざるを得なかった。インプラントを抜くことは、原告自身が最初から主張していたことで、無断ではない。骨幅が細くなったのでスクリュータイプのインプラントでは入らなくなり、薄いブレードタイプのものに切り換えた。」旨供述している。

(二) これに対し、原告は、上顎のインプラントには全く異常を感じなかったし、右インプラントを除去することにつき何らの説明もなかった旨述べている。しかし、原告は上顎に残っていた歯の歯槽膿漏が悪化したため被告の診療を受けたものであるところ、歯槽膿漏の悪化に伴い隣接するインプラントに動揺が生じてくることは十分あり得ることと思われるし、何らの問題もないインプラントを除去することは通常考え難いから(右手術においても、装着されていた全てのインプラントが除去されたわけではなく、選択がなされている)、インプラントを除去するだけの治療上の必要性は存在したものと認めるのが相当である(後述のように、この時期の診療録が存在しないという問題があるが、右の限度での認定は経験則上可能であるから、右の点については診療録不存在の不利益を被告に負わせる必要はない)。そして、特定部位のインプラントを除去し、そこに別のインプラントを埋め込む手術をすれば、施術を受ける原告には当然判ることであるから、全く説明なしに行うというのも通常ないことと考えられるうえ、原告の場合は、原・被告の供述によれば治療内容について積極的に意見・希望を述べていたことが明らかであって、なおさら全く説明なしに行うということは想定し難い。したがって、上顎のインプラントには全く異常を感じず、その除去について何らの説明もなかったとする原告の供述は、採用できず、前記被告の供述は信用できる。

以上のとおり、前記インプラント除去は原告に無断で行ったものであるとは認められず、この点についての債務不履行の主張は理由がない。

2  上顎洞穿孔の原因とその発見の遅れの有無

(一) 甲四の二、四の三、一二、原告、被告各本人によれば、以下の事実が認められる。前記昭和五七年一二月二五日の手術後間もなくから、原告は、右奥のこめかみあたりがずきずきして腫れも生じ、右側の鼻をかむと二、三日間鼻汁に血が混じり、四月になると黄色い鼻汁が出始め、奥からくさい臭いもするようになった。昭和五八年四月一五日、原告は、症状が良くならないので、徳永耳鼻咽喉科で診断を受け、歯性の蓄膿症と診断された。原告は、同年六月ころ被告にこの痛み等を告げたが、被告は徳永医師に連絡をとるといっただけで何の処置もしなかった。原告は右徳永耳鼻咽喉科で治療を継続していたが、病状が良くならないので、同年八月ころ東京医科歯科大学付属病院口腔外科で診療を受け、担当医師から右上顎六、七についてインプラントが上顎洞に突き抜けている可能性が高いこと、痛みがあるのならばこのままにしておくとよくないことを指摘された。そこで、同月二七日、原告が被告に対し右東京医科歯科大学病院の診断結果を告げると、被告は上顎洞炎症状の原因となっていた右上顎インプラントを除去した。

(二) 右経過によれば、上顎洞穿孔は、インプラント手術時か、少なくともその後間もなく生じていたことが推定される。

これに対し、被告は、昭和五八年二月から五月までの間、原告が来院し定期診察をしているが、とくに異常はなく、原告は何らの症状も訴えていなかった、本件上顎洞穿孔症状は、インプラント手術そのものによるものではなく、その後長期(被告は一年位との供述もしている)の時間経過があってから、原告の特異な骨体質のため日々の咬合圧・負荷等によって設置のインプラントが沈下現象をおこし、骨吸収の結果生じたものである旨主張している(もっとも、被告の供述中には、インプラント手術の際、穿孔を生じた可能性を肯定している部分もある。)。

ところで、本件については、訴え提起前に次のような事実があったことを指摘する必要がある(甲一五)。原告の申立により、東京地裁八王子支部裁判官が、起訴前の証拠保全として診療録等の書類の検証を行うため、平成二年一〇月三〇日ユニバーサル歯科クリニックに赴いた際、裁判官、書記官及び原告代理人らは昭和五四年一月一〇日から平成元年ころまでの診療録の存在を確認したが、被告が不在ということで内容の提示は拒否された。そこで、検証期日が再度決定され、同年一一月一六日に二度目の検証が行われたが、被告は、昭和六〇年五月二五日以降の診療録しか提示せず、それ以前の診療録については、裁判官が第一回の検証期日においてその存在を確認した旨説明しても「見当たらない」とのみ弁解して提示を拒否した。

右の経過によれば、被告は、昭和六〇年五月二五日以前のカルテ等について、それが裁判の証拠として提示が求められていることを知りながら、敢えて廃棄等して原告が証拠として使用できない状態にしたものと推認される。診療録は、もし医師の診療が適正に行われているならば、そのことを証明する最良の証拠となるはずのものである。それを医師自らが証拠とすることを妨害するのは、診療に不適正な点があったとの認定に結びつく記載が診療録中に存在したのではないかとの疑いを招くに足りる行為であるというべきである。そうすると、昭和六〇年五月二五日以前の診療録に記載されていた可能性の高い原告の症状や診療内容等については、原告の供述内容がとくに不合理ではなく、かつこれと異なる被告の供述に十分な根拠がない場合には、民事訴訟法三一七条の趣旨に従い(原告は、同条を援用したり、診療録の内容について具体的な主張をしたりしているわけではないが)、原告の供述を真実と認めるのが相当である。

インプラント手術後の症状及び診療内容については、右認定方法を適用すべき条件を満たしていると認められるので、主として原告の供述に従い前記のように認定すべきであり、したがって、上顎洞穿孔は、前記のように、インプラント手術時か、少なくともその後間もなく生じていたものと推定すべきである。

(三) そして、インプラント手術そのものによって上顎洞穿孔を生じさせたことあるいはその後間もなく上顎洞穿孔が生じるようなインプラント手術を行ったことは、施術に過誤があった場合であれ、そもそもインプラントを選択したことあるいはインプラントの技法の選択に誤りがあった場合であれ、特段の事情がない限り、歯科医師としての被告の診療契約上の善管注意義務に違反するものといわなければならない。

手術後の咬合圧・負荷等(ただし、被告の主張するような長期間のものとは認められない)によってインプラントが沈下現象をおこし、骨吸収の結果、弱い骨を突き破って交通路を形成したものであるとしても、被告は昭和五四年から原告の診療治療にあたっていて、原告の上顎骨が一般的に薄いこと、しかも従前のインプラントを取り外しその部分の骨が失われているためその分上顎洞が近接していること、原告の場合通常よりも骨吸収が早い骨質であることを認識しまたは認識し得たのであるから、骨吸収が進むことは当然予測したうえで、インプラントの適応性等について判断を下すべきであったと考えられる。したがって、右の点は、被告の注意義務違反を否定する特段の事情にあたらない。

また、被告は、原告に対し手術内容を詳しく説明し、その承諾をとって施術したもので、原告は自らも調査してインプラント治療の知識を獲得したうえで、手術結果が完全には満足のいかないものとなるかもしれない危険を承知の上で、先端医療であるインプラント手術を要望していたものであるから、本件インプラント手術から生ずる結果について、原告は被告に損害賠償責任を問えないと主張する。しかし、原告がインプラント治療について多少の知識を有していたとしても、所詮は素人であって新聞記事によって得た程度の知識にすぎず(甲一、二、原告本人)、まして、インプラントのような先端医療について患者が正確な知識を持つことは至難であって、むしろ過大な期待を抱きがちな傾向もある(本件原告の場合も該当する)から、専門家である被告としては、インプラントの限界・危険性について十分に説明したうえで、原告の承諾を得る必要があるところ、被告は、インプラント手術の種類、材料、手術後の管理、原告については骨の条件が良くないこと、歯周病があること、多数歯欠損であることから難しいケースであることについては説明したが、手術の結果起こり得る事態、耐用年数については、とくに説明はしなかったと認められるのである(被告本人)。そうすると、原告がインプラントを強く要望したのであるとしても、直ちに原告がインプラント手術から生じる危険を原則的に引き受けたものとみることは相当でなく、この点も被告の注意義務違反を否定する特段の事情にあたるとはいえない。

(四) 次に、上顎洞穿孔の発見が遅れたことについて被告に注意義務違反が認められるかどうかを検討する。

前述のように、上顎洞穿孔は、インプラント手術時か、少なくともその後間もなく生じていたものと推定されるが、被告が上顎洞穿孔を認めて、それに応じた治療を開始したのは、手術後約八か月を経過し、原告が東京医科歯科大学付属病院口腔外科で上顎洞穿孔の可能性を指摘されたことを被告に告げた後の昭和五八年八月末と認められる。しかし、原告については、前記のとおり、手術後間もなくから悪質な上顎洞炎の症状が見られたのであり、その段階でも穿孔の発見の可能性はあったものと推認され(右可能性の有無が確認できない一因は、診療録の不存在にあると考えられるので、被告に不利益に認定すべきである)、同年四月には徳永耳鼻咽喉科で歯性の蓄膿症と診断され、同年六月ころ原告から痛み等を告げられたのであるから、遅くともその時期には上顎洞穿孔の可能性を疑い、直ちにそれを確認して、上顎洞と口腔との交通を絶つ措置を講じるべきであったと認められる。

したがって、被告には、上顎洞穿孔の発見が遅れたことにより、原告に対し不当に長期に排膿、疼痛、痺れ、咬合痛等の苦痛を与えたという点についても、診療契約上の注意義務違反が認められるというべきである。

3  上顎洞穿孔に対する処置

(一) 上顎洞穿孔の存在を認識した後、前記のように、被告は、まず昭和五八年八月末上顎のインプラントを除去して、上顎洞を開放したが、九月二八日上顎洞の閉鎖を兼ねて右上顎六、七に骨膜下インプラントの手術をし、さらに左上顎五、六にも骨膜下インプラント手術を行うとともに、右上顎の穴の閉鎖手術を行った。しかし、右閉鎖手術の抜糸後も、同インプラント埋込み部分の歯茎は完全には閉鎖せず、その後、歯茎の開いている部分の縫直し手術等を行ったものの、同部分の歯茎は完全に塞がらなかった。そのため、昭和五九年夏ごろから同部分から食物の粕が入り歯茎の下に溜まって歯茎にはれものができたり、右上顎洞に食物の粕が入ったり、右鼻から黄色い鼻汁が出始め、臭いにおいもするようになった(甲一二、被告本人)。さらに、骨膜下インプラントのフレーム周囲に痛みや出血の症状も出てきたため、同年九月ころ、被告は骨膜下インプラントを抜去し、上顎洞の閉鎖手術をした。

右経過に照せば、骨膜下インプラントが所期の目的を達成せず失敗に終わったことは否定できず、本件の場合、骨膜下インプラントが上顎洞穿孔の閉鎖方法として有効適切なものであったかどうかについては、結果論としてではなく疑問があるといわなければならない。のみならず、二回にわたってインプラントが不成功に終わり、前のインプラントを除去したばかりの部位へ、技法は違うとはいえ、三度のインプラント手術を行うことについては、慎重でなければならなかったと考えられる。骨膜下インプラントについては、抜歯後間もない口腔に行うのは禁忌とされ、少なくとも一八ないし二〇か月の経過観察後に施行すべきであるとされているのであって、この点は被告自身の著作においても記述がある(乙一二、甲一六)。インプラント除去後については抜歯後と特段に事情が異なるとも考え難いのであって、以上のような諸点を考慮すると、本件骨膜下インプラントは、インプラントそのものとしても、上顎洞穿孔の閉鎖方法としても適切なものであったとは思われず、骨膜下インプラント手術を選択・実施し、他の上顎洞の閉鎖術を選択・実施しなかった点において、被告には、善管注意義務違反があると認められる。

(二) 前述のように、昭和六二年一月から、原告の希望で上顎側歯茎と骨の間に顆粒のアパタイトを入れる手術を行っていたところ、歯茎を切開した部分の術後の閉鎖が十分でなく、その部分からアパタイトが何粒か出てくるようになり、同年四月には右鼻から黄色い鼻汁が出て臭いにおいがするようになったので、原告が被告に診断してもらうと、開いていた歯茎の穴の中に義歯の裏に張ってある白いシリコン状の物が入り込んで上顎洞が炎症を起こしていることがわかった(甲一二、原告本人)。そこで、前記事案の概要三10ないし12記載のように、同年五月から八月にかけて、被告は、再三にわたって、上顎洞の歯と歯茎の間に固形のアパタイトを入れる等の閉鎖手術をしたが、いずれも成功せず、九月には、各種文献を調べた上、骨の穴をチタンプレートで塞ぐ閉鎖手術(シールド法)を行ったが、粘膜がうまくつかず、食事をすると右顎が腫れるようになり痛みと痺れが加わるようになり、同年一一月四日に東京医科歯科大病院の医師から、チタンを早く取ることを勧められ、右顎関節症、右上顎洞炎と診断された。同月二一日被告がチタン板を取り、上顎洞の閉鎖手術(縫合)をしたが、それでも穴が塞がらなかったため、原告は、翌昭和六三年一月七日、被告から紹介を受けた慈恵医大において閉鎖手術(口蓋粘膜弁形成手術)を受けて、やっと上顎洞は閉鎖された。

右経過を見る限り、被告が不完全な閉鎖手術を繰り返して、無益に時間を費やしたのではないかとの印象を受ける面があり、穴が大きい場合は通常の開業医の技術では難しい部分もある(被告本人)というのであるから、もっと早期に大学病院等への転医を勧めるべきではなかったかとの疑問がないわけではない。しかし、右のような印象・疑問について、それが医師としての専門的裁量の範囲を超えているものかどうかを判断する的確な証拠がないので、善管注意義務に違反した債務不履行があったものと断定することはできない。

4  スウェーデン製インプラント

(一) 原告は、被告の勧めにより、前記事案の概要三13記載のとおり、昭和六二年一一月ころ、被告は原告の上顎の前歯部左二から右二までにスウェーデン製インプラントを四本埋め込み、翌昭和六三年四月第二回目の義歯を取り付ける手術を行った。ところが、同年六月ころから、右インプラントに取り付けた義歯の具合が悪くなり、あごの痛みやシビレが出てきて、インプラント自体動揺するようになったので、事案の概要三14記載のように、平成元年二月ころ東京医科歯科大学付属病院口腔外科で診療を受け、上顎前歯部のインプラントが動揺して感染し、慢性化膿性歯槽骨炎になったと診断され、右インプラントを取り外したほうがよいと指摘されたので、同月二〇日右病院で同インプラントを除去する手術を受けた。

(二) 右のように、スウェーデン製インプラントは昭和六二年一月の手術から約一年半の後には不具合を生じ、約二年後に慢性化膿性歯槽骨炎のため抜去される結果に終わっている。

一九七八年(昭和五三年)にNIHハーバード会議で採択された基準によれば、インプラントが有効かつ成功とみなされるためには、五年以上安定に機能しており、インプラントに起因する病的徴候や感染のないことが基準の一つとなっていたが(乙一三、懸田証人、被告本人)、その一〇年後のアメリカ国立衛生研究所主催の公聴会では、最低一〇年は機能することが望ましいとされた(懸田証人)。この基準に照らすと、本件スウェーデン製インプラント手術は、とても成功とはいえず、むしろ著しい失敗と評価されることになろう。

本件スウェーデン製インプラント手術の施術にミスがあったことを窺わせる証拠もないので、原告の顎骨の状態等がインプラントに適合しないものであった、あるいは従前の手術の結果すでに適合しないものとなっていたことに原因があったものと推認されるが、被告としては、長期間原告の治療に携わった者として、当然そのことを認識すべきであったと認められるから、右インプラント手術を行い、原告を慢性化膿性歯槽骨炎に罹らせた被告の行為は、診療契約における善管注意義務に違反する債務不履行にあたるといえる。

なお、本件インプラント手術は、インプラントに対する原告の強い要望に基づくものであると認められるが(被告本人)、スウェーデン製を用いること自体は被告の推薦によるものであり、原告の要望の点は、被告の責任を否定するまでの事情とはいえない(治療費をもらっていない点についても同様である)。

また、被告は、慢性化膿性歯槽骨炎について、特別重篤な病状を示す傷病名ではないとして、インプラントの成功不成功とは関係がないことのようにも主張するが、東京医科歯科大学付属病院口腔外科でインプラントを取り外したほうがよいと判断し、除去手術を行ったことについては、専門機関の責任ある判断として尊重すべきものがあるとしなければならない。

結局、被告の債務不履行責任を否定すべき事情は認められない。

二損害の有無及び額

1  治療費

(一) 原告は被告に対し、本件インプラントに関し、下顎について、昭和五四年一月一六日にインプラント代二五万円、同年二月五日にその義歯代四二万円、上顎について、同月一三日にインプラント代二五万円、同年二月二三日、同年三月二日にその義歯代各二一万円(合計一三四万円。甲三の一、甲五)、下顎の左三から右三について、昭和五七年六月五日にインプラント代一〇万円(甲四の一、甲六)、同月一九日にその義歯(メタルボンド)代一八万円(甲七)、上顎の左七から右七にかけて、昭和五七年一二月二五日にインプラント代二〇万円、昭和五八年一月八日にインプラント代七万円、同月一三日にブリッジ代四二万円(甲四の二)、昭和六〇年三月二五日に修理代二〇万円(甲四の五)をそれぞれ支払っていることが認められる(合計二五一万円)。

(二) そこで、被告の債務不履行と因果関係のある損害を考えると、債務不履行であるとされたインプラント治療は、前記一2の昭和五七年一二月二五日のインプラント埋込み手術以降の上顎に関するもので、それ以前及び下顎に関するものは、債務不履行責任が認められない。したがって、被告の債務不履行と因果関係のある損害として認定できるのは、昭和五七年一二月二五日のインプラント代二〇万円、昭和五八年一月八日のインプラント代七万円、同月一三日のブリッジ代四二万円の合計六九万円にとどまる。

もっとも、咀嚼機能は上下の歯を併せなければ十全なものとはならないが、個々の歯の治療だけでも意味がないとはいえず、右咀嚼機能への影響の点は慰謝料の算定において考慮するのが相当と考えられるのであって、治療費の支払い自体を損害として請求する場合には、善管注意義務違反の認められない治療部位の治療費は因果関係のある損害とすることは相当でない(ただし、本件において問題になるのは、昭和六〇年三月二五日の修理代二〇万円だけである)。

2  逸失利益

原告は、被告の債務不履行により、労働災害並びに交通賠償の後遺障害別等級の一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に相当する後遺障害があったものとして、逸失利益の賠償を請求している。

しかし、甲一一、一二及び原告供述によれば、原告は右顎付近の痺れや痛みを訴えて日本歯科大学付属病院で治療を受けていることが認められるものの、その原因、程度、永続性等について医学的に証明する資料は提出されていないのであって、右痺れや痛みをもって右等級の一二級あるいは同一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当するものと認めることは相当ではない。また、右証拠によれば、咀嚼機能に障害が残っていることも認められるが、すでに述べたように、原告の歯は被告の治療を受ける以前から歯槽膿漏で手遅れの状態であったこと、原告の場合インプラントに対する適合性に疑問があってインプラントによる咀嚼機能の根本的改善は当初からあまり期待できなかったことなどを考慮すると、被告の債務不履行と因果関係のある咀嚼機能障害の有無・程度を認定することは困難である。したがって、本件については、逸失利益の算定の基礎とすべき後遺障害の有無・程度を確定することができないから、逸失利益の賠償請求は理由がない。

もっとも、右痺れや痛みの存在と、被告の債務不履行との概括的な因果関係は認め得るところであるから、右の点は慰謝料の算定において考慮するのが相当である。

3  慰謝料

甲一二、原告供述及び弁論の全趣旨によれば、上顎洞穿孔、骨膜下インプラント手術等右穿孔に対する治療の不適切、スウェーデン製インプラント手術等、被告の債務不履行責任が認められる前記各行為により、長期的かつ継続的に種々の苦痛を受けたことが認められ、これが原告の生活、職業にも多大の影響を与えたことが窺われる。また、前記逸失利益の点及び治療費の点を慰謝料の算定にあたり考慮に加えるべきである。

他方、原告は、被告の診療を受ける以前から上下顎ともほとんど無歯顎に近い状態で、残った歯も歯槽膿漏の進行でほとんど末期的状態であったこと、インプラント治療は原告の強い希望によるものであって、下顎のインプラント等被告の治療には成功と評価できる部分もあり、これにより不自由な可撤性義歯を入れなくて済んだという面もある。

以上の点及び本件訴訟提起前の事情等、本件の一切の事情を考慮すると、本件の精神的損害に対する慰謝料としては、金四〇〇万円をもって相当と認める。

4  弁護士費用

原告が本件訴訟の代理人を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、損害の約一割にあたる五〇万円を本件債務不履行と因果関係のある損害と認めるのが相当である。

三結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、五一九万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官金築誠志 裁判官田中俊次 裁判官佐藤哲治)

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